久々にベニチオ・デル・トロが観たくなり、“ハンテッド”を借りて観る。ジャンルで言うと逃亡&追跡モノで、追いかけ役がトミー・リー・ジョーンズだから“逃亡者”[1993]とか“追跡者”[1998]とかの括りになると思う。けれども逃げ役がハリソン・フォードとかでなく、ベニチオ・デル・トロになっているあたり、企画側の手詰まり感が出ていて良い。
 デル・トロはかなり好きな俳優の一人だ。何より寡黙な演技がいい。スパニッシュ系で、ハリウッドメジャーに出てきた当初は単に英語が上手くなかったからというのもあるはずだが、最近ではその押し黙りキャラがすっかり定着した味になっている。トミー・リー・ジョーンズも最近は背中で魅せる渋さを醸し出すようになったおかげで、この作品での二人の格闘シーンは専ら無言で行われる。これが良かった。というかセリフが出ると、急にトーンが落ちる。頼むからダマッて戦え、と観てる最中、幾度か思った。

 アクション主体のこの作品で最も印象的だったのは、両主人公の身体的特殊技能を極地での銃を使用しない近接戦による暗殺法としている点で、映画の佳境ではなんと、手近の材料から原始的な石器づくりや鍛金工法で武器となるナイフを作り出していた。最新の銃器や近未来的な装備を伴う格闘シーンなど、観客はとうに見飽きている。CG技術の発展により予算規模と製作サイドの想像力の巧拙のみが問われるようになった現状では、むしろこのような肉体=自然への回帰はニッチをいく魅せ方として利くだろう。
 だがそれ以上にこの演出が興味深いのは、いざ原始的な肉弾戦に回帰した追跡劇、格闘戦を映像化した時、そこではおのずと都市/自然の二項対立的な認識がまるで意味をなくすということだ。生きるために動く、食べる、そして殺す。周囲の環境の差異など、これらの動作にはおよそ無意味な要素となってくる。この作品中ではとりわけ大都会のど真ん中で行われた追跡シーンにおいて、追う者/逃げる者の双方の目線や四肢の先をカメラが逐一追いかけることにより、環境すべてをサバイバルに利用可能なモノとして平準化する視座を獲得しえていた。撮影監督はキャレブ・デシャネル。彼は“パッション”[2004]でも同傾向のショットを試みている。
 監督のウィリアム・フリードキンという名は初見だけれど、この一点のみを以っても十分に評価に値すると思う。というか検索してみたら、なんと“フレンチ・コネクション”[1971]や“エクソシスト”[1973]の監督だった。“エクソシスト”、やはり一見に値するかも。う~ん……ん、恐いの不安。


"Hunted" by William Friedkin / Benicio Del Toro, Tommy Lee Jones / Caleb Deschanel [cinematographer] / 94min / USA / 2003 ☆