バックパックを片手に友人宅を渡り歩き、根無し草の生活を続ける21歳の娘イザ(by エロディ・ブシェーズ)が、ひょんなことから出会ったもう一人の主人公で同い年のマリー(by ナターシャ・レニエ)の元へ転がり込む。マリーの暮らす家の持ち主は家族ぐるみで事故に遭い、植物状態に陥った少女だけが残されている。

 奔放でいつも元気な可愛らしいイザと、引っ込み思案で美人のマリー、どこまでも対照的な二人の生活を、アニエス・ゴダールのカメラが丁寧に、ときに手持ちカメラで感情のささやかなどよめきをも追いかけるかのように映し出していく。根が内向的で自分からは新しい世界に挑むことのなかったマリーがイザとの出会いにより触発され人生に対し前のめりになってゆくも、遊び人で裕福な若者クリスの毒牙にかかり身を持ち崩していく過程はよく理解できるものであるだけに痛々しい。自由に生きることが己に対しても責任を伴うものであることに自覚的なイザはマリーを諫めるが、マリーはもはや聞く耳を持とうとせず、彼女本人にとってはもうこれしかないという陰惨な結末へとひた走ってゆく。

 いまは植物状態にある少女がかつて付けていた日記帳をみつけたイザは、治療室の彼女の元へ幾度となく通いだす。物語の進行に影響を受けることなく眠り続ける少女というモチーフは、横たわる彼女の寝姿が逆に物語全体へと深い余韻を与えていくという点で、アドモルバルの“トーク・トゥ・ハー”や村上春樹の“アフター・ダーク”を想い起させる。そのいずれもが、眠り続ける少女の容態の変化によって物語のラストを象徴的に描いているという点でも通底するものがある。眠る無意識の存在を背景に置くことで覚醒した意識のゆらぎを対象化してみせる手法にはある種神話的な趣きすら感じるが、その実もっとも見開いた瞳こそがもっとも盲目的でありうる今日にあっては、それこそが事象を眼差す真に現代的な所作たりうるのかもしれない。


"La vie rêvée des anges" (The Dreamlife of Angels) by Erick Zonca / Élodie Bouchez, Natacha Régnier, Grégoire Colin / Agnes Godard [Cinematographer] / 113min / France / 1998
1998年カンヌ国際映画祭最優秀主演女優賞W受賞 ☆☆