ある国際空港で一切の出入国が不許可となった人物を主人公に据えた作品と聞けば、映画好きの人間の多くは即座にロシュフォール主演の“パリ空港の人々”[1993]を思い出すことだろう。映画“ターミナル”も案の定、同作品のリメイクだった。しかも元作品にはないヒロインを登場させて恋愛シーンをつくり(スッチー役 by キャサリン・ゼタ=ジョーンズ)、悪役も用意して対決シーンに持ち込むという(取り締り官 by スタンリー・トゥッチ)、徹頭徹尾ハリウッド的落とし込みを加えている。これをスピルバーグの詐術とみるか、クリエイティヴィティの枯渇とみるかはおそらく意見の割れるところだと思う。

 ともあれトム・ハンクスの演技はいつも通りの水準に達していて、これだけで充分楽しめたとは言える。様々な人物や出来事との遭遇をへて、空港を出るか否かという主人公の決断が物語の行方を左右してゆくプロットの構成は大枠で“パリ空港の人々”を引き継いではいるものの、キャスティングの相違が両作品の質の違いを決定的なものとしている。すなわち“パリ空港の人々”では、このようなビルドゥングスロマンの一典型を青年ではなくロシュフォールという、老年で二枚目でありつつもとぼけた風情のある俳優が演じるところに玄妙なエスプリが生じていたのだが、これがトム・ハンクスになるともう彼以外ではありえないような異様さを孕んでくる。食べ物を獲得し、建築施工の腕を発揮してゆくくだりなどにとりわけ顕著だが、その極太なヴァイタリティー放恣の様は成長譚というよりは、もはや“フォレスト・ガンプ”[1994]や“キャスト・アウェイ”[2000]で彼が見せたような冒険譚に近い。

 ちなみに本作品および“パリ空港の人々”でモデルとなった実在の人物は“元”イラク人で自称アルフレッド・マーハンと名乗り(元の本名は別にあった)、現在も17年目の滞在をシャルル・ド・ゴール空港で続けているらしい。彼を難民とみるのは高等遊民とみるのと同程度に無理を感じるが、いずれにしてもこの特異さには孤高の色合いを感じてならない。
(↓こちらのBBCドキュメント動画にマーハン本人が特集されています)
http://news.bbc.co.uk/olmedia/cta/events99/millennium/diaries/airport.ram


"The Terminal" by Steven Spielberg / Tom Hanks, Catherine Zeta-Jones, Stanley Tucci / 129min / USA / 2004 ☆