“トレイン・スポッティング”[1996],“ザ・ビーチ”[1999]のダニー・ボイル監督作ゆえ、他の要素はともかく映像と音楽のスピード感だけは期待できると思って観たのだけれど、期待以上に楽しめた。というか、どんどん巧くなっている。“ザ・ビーチ”はやや落ちたけど、“28 Days Later”を込みで考えれば一発屋的な評価は彼の場合には当たらない。

 この一点を外して観てしまうと、この映画のストーリー設定は基本的にはロメロ&アルジェントの古典的傑作“ゾンビ(Dawn of the Dead)”[1978]やカプコンの同名ゲームが原作の“バイオハザード(Resident Evil)”[2002]のコピーで、ゾンビの巣食う都心エリアでのサバイバル&脱出劇が映画の全編を占めるから、背景設定の詰めの甘さとか、後半になってアクションシーンだけが前景化してくることの凡庸さとかがネガティヴポイントに映ってしまうことになる。だがむしろ、賢しげにそんなものをこの監督に求めることの方が的外れなものにも思える。100分間たるむことのないMTVみたいなグルーヴのあるこうした作品をこれからも撮り続けてくれるなら、猫的にはこのうえない。

 作品後半で異様なオーラをまとって登場するウェスト少佐の以下のセリフには、クライマックスで主演のキリアン・マーフィが見せる怪演の印象とも相俟って、現実認識と表象を巡るダニー・ボイルのディレクティングに特有の志向性がコンパクトに言語化されている観がある。
 “……This is what I've seen in the four weeks since Infection. People killing people. Which is what I saw in the four weeks before Infection, the four weeks before that...before that... As far back as I care to remember, people killing people. Which to my mind puts us in a state of normality right now.”
 ちなみに撮影監督はアンソニー・ドッド・マントル。この作品と“ドッグヴィル”[2003]とでヨーロッパ映画賞撮影賞を獲得。脚本は“ザ・ビーチ”の原作者で売れ線小説家のアレックス・ガーランド。どうりで歯切れが良いわけだ。


"28 Days Later" by Danny Boyle / Cillian Murphy, Naomie Harris, Brendan Gleeson, Megan Burns, Christopher Eccleston / Alex Garland [scr] / Anthony Dod Mantle [Cinematographer] / 112min / UK, US, Holland 2002 ☆☆☆