“8 Mile”は、ハードコアラッパー(こう書くと何だかカワイイ感じだが)エミネムの自伝的ストーリー。主役のジミー役(エミネムの本名)を、エミネム本人が演じている。舞台は彼の出身地である1990年代のデトロイト。産業構造の変化に置いてけぼりを食らって荒んだ街並みがしばしば映し出されることになる。
 タイトルの“8 Mile”とは、直接的にはデトロイト市内中心部に横たわる、白人中心の富裕層と黒人を中心とする貧困層との居住区を分ける人種的境界間の距離を指している。この“8 Mile”が作品中ではたびたび象徴的に扱われ、ときに絶対的な壁として、ときにいつか越え出て行くべきゲートとして語られる。

 場末のクラブで開催されるラップバトルのシーンは見モノ。とりわけ最後の優勝決定戦の場面でのエミネムによるラップの実演はさすがというか、気合が漲っていて痛快。バトルを勝ち抜くために採られる戦略はロジカルにはありきたりなものだが、画面の臨場感がそのベタさを吹き飛ばしていた。
 エミネムは役者としても十分堂に入った演技を披露しており感心。ここで Bjork や Madonna、あるいは Faye Wong を挙げるのも良いだろうが、国境を越えるようなスター歌手には演技功者の比率が割に高いような気がするのはなぜだろう。 歌手一般に比べてもしこうした演技との親和性の面で質的に優位に働くような要素があるとすれば、それはそれで興味深い。

 他のキャストでは、エミネムの新しいガールフレンド(Alex)を演じた Brittany Murphy が非常に良かった。とくにエミネムとのセックスシーンで見せた呆けた表情の動きは類稀なものを感じた。他にもエミネムの母役で Kim Basinger、親友役(Future)で Mekhi Phifer("ER"でベントンにいじめられる若い黒人医師をやってた俳優)、グループの女友達の一人に"24"で大統領の秘書役をやっていた若い黒人の女優(名前我不知)など、力量ある面々が脇を固めていた。太っちょの友人 Sol George を演じた Omar Benson Miller も素晴らしく良い。
 監督は"L.A.Confidential"(1997),"Wonderboys"(2000)などのカーティス・ハンソン。DVD特典の監督のインタヴューをみたかぎりでは、想っていたよりずいぶん洒脱な感じの人だった。


"8 Mile" by Curtis Hanson / Eminem, Kim Basinger, Brittany Murphy, Mekhi Phifer, Evan Jones, Omar Benson Miller / 110min / USA / 2002 ☆